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東京家庭裁判所 昭和39年(少)9593号 決定

少年 S・M(昭二二・五・三〇生)

主文

少年を東京保護観察所の保護観察に付する。

理由

(決定罪となるべき事実)

少年は、

一  ほか四名と共謀のうえ、昭和三九年三月○○日午前一一時頃、東京都板橋区○○町○○第三公園において、森○清(当時一四年)ほか三名を取り囲み「お前達金を持つているだろう、貸せ」といつて金銭を要求し、もしこれに応じなければ暴行を加えるかも知れないような態度を示して同人等を畏怖させ、よつて即時同所において森○から同人等共有の現金一、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

二  ほか二名と共謀のうえ、昭和三九年五月○日午後四時頃、東京都板橋区○○○三丁目○番地附近道路上において、通行中の○越○郎(当時一五年)および○野○雄(当時一五年)を取り囲み、「金を貸してくれ」といつて金銭を要求し、同人等がこれを拒否するや、所携の木刀および竹刀を示し、すごみをきかせた声で、「もし持つていたらぶん殴るぞ」といつて同人等を畏怖させ、よつて即時同所において、○越○郎から現金二〇円、○野から現金二〇〇円の交付を受けてそれぞれこれを喝取し

三  ほか五名と共謀のうえ、通行人から金品を脅し取ろうと企て、

(1)  昭和三九年五月△日午後六時五〇分頃、東京都板橋区△△△二丁目○○番地附近道路上において、通行中の○藤○朗(当時一五年)の後に立ちふさがり、所携の木刀および竹刀を示しその肩に手をかけ、「おい黙つて金を出せ」といつて金銭を要求し、同人がこれを拒否してその場から逃走せんとするや、いきなり同人の腕を掴み「この野郎逃げる気か」といいながら同人の足を数回蹴とばしたうえ、所携の木刀および竹刀で同人の腕や足を数回殴りつけ、その反抗を抑圧したうえ、同人から現金一二〇円を強取し

(2)  同日午後七時頃、同区××三丁目○○番地附近道路上において、通行中の○田○一(当時一四年)を取り囲み、「金を持つているか」といつて暗に金銭を要求し、同人がこれを拒否するや所携の木刀を同人の腹部に突きつけ、「痛い目に会う前に金を出せ」といつて脅迫したが、同人が隙を見てその場から逃走したため所期の目的を遂げず

(3)  同日午後七時四五分頃、同区××町一丁目○○番地附近の道路上において、通行中の○川徹(当時一五年)を道路脇のコンクリート壁に押しつけるようにして取り囲み、「金を出せ」と要求し、同人がこれを拒否するや、いきなり所携の木刀および竹刀で同人の肩や肘を殴りつけ、さらにその場にしやがみ込んだ同人の顔面を手拳で殴りつけてその反抗を抑圧し、同人から金銭を強取しようとしたが、通行人の気配を感じてその場から逃走したため所期の目的を遂げず、その際右暴行により同人に対し、全治二〇日間を要する左肘関節部打撲症の傷害を負わせ

(4)  同日午前七時五〇分頃、同区××町一丁目××番地附近道路上において、通行中の○本○子(当時一五年)に対し、いきなりその腕を掴み、「金を貸せ」といつて金銭を要求し、もしこれに応じなければ暴行を加えるかも知れないような態度を示して同女を畏怖させ、その身体を探つたうえ同女着用の腕時計一個をはずし取つてこれを喝取し

(5)  同日午後八時四〇分頃、同区××町二丁目○○番地附近道路上に駐車してあつた中型貨物自動車内から○中○幸所有のいちご一箱(二瓩入れ)を窃取したうえ逃げようとしたところ、同人に発見追跡され同所附近の道路上で捉われようとしたので、その逮捕を免れるため、所携の木刀および竹刀で同人の腕を乱打し、よつて同人に対し全治約二週間を要する右肘関節および前腕部打撲症の傷害を負わせ

(6)  同日午後九時五分頃、同区□□町一丁目○○番地附近道路上において、通行中の○田○雄(当時三一年)の前に立ちふさがり、所携の木刀および竹刀を示しながら、「新宿まで帰る旅費を貸してくれ」といつて金銭を要求し、もしこれに応じなければ暴行を加えるかも知れないような態度を示して同人を畏怖させ、よつて即時同所において、同人から現金四五円の交付を受けてこれを喝取し

(7)  同日午後九時三〇分頃、同区○×町三丁目○番地附近道路上において、通行中の○下○男(当時二四年)および○生○一(当時一九年)の前に立ちふさがり、「おい、金を貸せ」といつて金銭を要求し、同人等がこれを拒否するや、いきなり○下の顔面に頭突きを加えたうえ所携の木刀でその背部を殴りつけ、さらに同人等に対し、懐中から刃物を取り出すような態度を示して脅迫し、その反抗を抑圧したうえ、○下から現金一、〇〇〇円、○生から現金五〇〇円をそれぞれ強取し、その際右暴行により○下に対し、全治約一〇日間を要する口啌内挫創等の傷害を負わせ

四  ほか一名と共謀のうえ、昭和三九年五月△日午後九時一五分頃、板橋区○×町二丁目○○番地○○運送株式会社寮附近を大声を上げながら通行中、同寮居住者から静かに通るよう注意されたことに憤慨し、同寮二階四号室に向け投石し、同会社社長○竹○吉管理の窓がラス三枚を破壊し、もつて他人の器物を損壊し

たものである。

(適条)

一、二(各恐喝)、三(四)および三(六)の各事実 刑法第二四九条第一項、第六〇条

三(一)の事実 同法第二三六条第一項、第六〇条

三(二)の事実 同法第二五〇条、第二四九条第一項、第六〇条

三(三)および三(五)の各事実 同法第二四〇条、第六〇条

三(七)の強盗の事実 同法第二三六条第一項、第六〇条

強盗傷人の事実 同法第二四〇条、第六〇条

四の事実 同法第二六一条、第六〇条

(保護の理由)

少年の本件非行中、三の(一)ないし(七)の一連の非行は、犯情がかなり悪質であるが、その動機を見ると、本件当夜共犯者等とともに夜遊び中、かねて面識のある不良成人○松○二から当日中に一人当り一、〇〇〇円の金銭を調達すべきことを強制され本件非常手段に訴えるに至つたもので、少年の主観的側面はそれほど悪質なものとはいい難い。けれども少年は知能(IQ八六)その他の資質(特に情緒が不安定)がやや劣り、すでに中学在学中に窃盗等の非行が発現し、高等学校進学後は勉学を嫌い怠休多く、高校中退後もとかく粗暴な言動を用い、不良交遊や夜遊びに興じて素行悪く、その間窃盗、傷害、器物毀棄の非行(いずれも不開始)を行い、さらに本件非行もあつて、保護者(父は○電運転手)の放任的態度を合せ考えると、将来まことに憂慮すべき状態にあつた。しかし反面少年は非行性が特に進んでいるとも思われないうえ、勤労意欲も旺盛であり暫く少年をその地域社会から隔離することによつて従前の不良交友関係を切断し情性の安定を計り、適切な生活補導を試みるならば在宅保護の余地も十分に見込まれたので、さきに最終処分を留保して少年を茂原訓練所に補導委託したところ、その後少年は一応事なく過し、態度に落着きが現われ、補導委託の効果も一応挙げ得たうえ、元の職場への再就職も決り、また両親もこれまでの放任的態度を反省し少年に対する将来の監護を誓約している。従つてこの際少年を保護観察に付し、在宅のまま補導を試みる方が少年の自主性を尊重し、自覚を昂めるゆえんともなろうと思われる。

よつて、本件については少年法第二四条第一項第一号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷川修)

(編註)

本件共犯者の処分結果

少年 M・I(昭二三・二・七生)東京家裁 昭三九(少)九五九四号 昭三九・一〇・八決定 保護観察

少年 N・S(昭二四・一一・二四生)東京家裁 昭三九(少)八〇四二、九五九五号 昭三九・六・一〇決定 教護院送致

少年 N・A(昭二三・三・二九生)東京家裁 昭三九(少)九五九六号 昭三九・六・二三決定 保護観察

少年 O・M(昭二四・四・二九生)東京家裁 昭三八(少)二九二六二、昭三九(少)八〇四一、九五九七号 昭三九六・一〇決定 教護院送致

少年 K・K子(昭二三・七・七生)東京家裁 昭三九(少)九五九八号 昭三九・一〇・二〇決定 保護観察

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